Lv.68 建築を読む ー 空間と歴史と人間のはなし No. 5 名建築家の設計思想を読む






第5回 名建築家の設計思想を読む|建築を読む


建築を読む — 空間と歴史と人間のはなし
No. 5

建築家の思想

名建築家の
設計思想を読む

安藤忠雄・ル・コルビュジエ・ザハ・ハディド

建築を読む シリーズ
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第5回
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約3,200字


建築家はどんな問いを立てて設計するのか。建物の美しさや機能性に目を奪われるとき、私たちはしばしばその背後にある「思考」の存在を忘れる。だが、優れた建築には必ず、建築家が世界と格闘した痕跡が刻まれている。今回は20世紀から21世紀にかけて建築の歴史を塗り替えた三人——安藤忠雄、ル・コルビュジエ、ザハ・ハディド——の設計思想を取り上げ、それぞれが建築に託した問いを読み解いていく。

ARCHITECT 01

安藤忠雄

Tadao Ando, 1941–

独学で建築を学び、世界的建築家へ——安藤忠雄の経歴そのものが、すでに一種の建築的思想の体現といえる。彼の代名詞はなんといっても打放しコンクリートである。型枠を外した後にそのまま仕上げとして残されるコンクリートは、材料の素直さをそのまま見せる「嘘のない表面」だ。安藤はこの素材に美を見出した最初の建築家のひとりであり、荒削りな工業素材を精緻な詩へと昇華させた。

キー・コンセプト

「光の教会」に見る光と影の哲学

1989年に竣工した茨木春日丘教会(通称・光の教会)は、わずか113平方メートルの礼拝堂でありながら、世界中の建築家を驚かせた。打放しコンクリートの壁に切り込まれた十字形のスリット。差し込む光は時間とともに動き、空間の表情を刻々と変え続ける。安藤にとって「光」は装飾ではなく、建築そのものを意味した。

安藤の思想の核心にあるのは「自然との緊張関係」である。彼の建物はしばしば、自然から人を「切り取る」ように設計される。外の世界から隔絶された中庭、空だけが見える開口部、水面に映る空——これらは自然を直接取り込むのではなく、壁と光と影によって自然を抽象化した体験を提供する。住吉の長屋(1976年)では、雨が降れば傘を差さなければ部屋から部屋へ移動できない。それは不便ではなく、自然を「生活の中に感じ続けるための装置」だと安藤は言う。

「建築は人間が自然の中に生きているということを、忘れさせないための装置でなければならない」

— 安藤忠雄の設計思想より

安藤建築が与える緊張感は、快適さの否定から生まれる部分もある。住吉の長屋はエアコンを想定していない。光の教会は冬に冷え込む。だがそこに身を置くとき、人は空間に強烈に「集中」させられる。この「不便を通じた覚醒」こそが、安藤の建築哲学の急所である。

ARCHITECT 02

ル・コルビュジエ

Le Corbusier, 1887–1965

20世紀建築を語るとき、ル・コルビュジエを避けることは不可能だ。スイス生まれのこの建築家は、現代建築の原理そのものを打ち立てた思想家であり、今日私たちが「当たり前」と感じる建築的語彙の多くを発明した人物である。

コルビュジエが1926年に提唱した「近代建築の五原則」は、その後の建築史を根底から変えた。ピロティ(建物を柱で持ち上げ1階を開放する)、屋上庭園、自由な平面(壁が構造を担わないことで間取りが自由になる)、水平連続窓、自由なファサード——これらは技術的な解決策であると同時に、「建築はいかにあるべきか」という強烈な宣言だった。

キー・コンセプト

「住宅は住むための機械である」

コルビュジエの最も有名な言葉のひとつ。これはしばしば冷淡な機能主義として誤解されるが、本来の意味は「機能美の賛美」にあった。自動車や飛行機のように、住宅もまた人間の生活に完璧に奉仕する設計であるべきだという主張である。彼は機能と美を対立ではなく、一体のものとして捉えた。

コルビュジエの思想を理解する上で欠かせないのが「モデュロール」という概念だ。人体の黄金比に基づいた独自の寸法体系であり、彼はこれを建築設計の基準尺として生涯使い続けた。マルセイユのユニテ・ダビタシオン(1952年)は、モデュロールに基づいて設計された集合住宅の傑作で、商店、学校、プールまでを内包した「垂直の都市」の試みだった。

しかしコルビュジエの思想には影の側面もある。彼が構想した「輝く都市」計画(パリ旧市街を高層タワー群に置き換えるという構想)は、人間の生活を「合理化」しすぎた都市計画の危うさを示した。思想の純粋さが過ぎるとき、それは現実の複雑さを排除しかねない——コルビュジエは近代建築の栄光と限界を同時に体現した存在でもある。

ARCHITECT 03

ザハ・ハディド

Zaha Hadid, 1950–2016

「紙の建築家」と呼ばれた時代があった。コンピューターを駆使した流動的な曲線を描き続けながら、実現した建物がほとんどない時期のザハ・ハディドを指した言葉だ。だがその「紙の建築」は、後に建設技術の進化とともって現実の空間へと降臨し、21世紀建築の風景を塗り替えることになる。

ザハの設計思想の核心は「直線の解体」にある。従来の建築が垂直・水平の軸を基準としてきたのに対し、ザハは傾斜し、ねじれ、流れ出す建築を追求した。彼女はそれを「凍った液体」と表現したこともある。重力に抵抗するかのような形態は、単なる造形の奇抜さではなく、「建築は静止したものでなくてよい」という深い問いから導かれたものだ。

「建築には角がなくてもいい。なぜなら自然界に角はないから」

— ザハ・ハディドの設計思想より

キー・コンセプト

パラメトリック・デザインと建築の未来

ザハの事務所(Zaha Hadid Architects)が先鋭的に使用したパラメトリック・デザインとは、数学的アルゴリズムによって建築形態を生成する設計手法だ。単に「曲線を描く」のではなく、条件(風、光、人の流れなど)をパラメータとして入力し、そこから建築が「育つ」ように形を導出する。ザハはこの手法を通じ、建築と環境が連続する新しい関係を探求し続けた。

ザハは2004年にプリツカー賞を受賞した最初の女性建築家でもある。イラク出身の女性が男性中心の建築界でその地位を確立するまでの道のりは、想像を絶する険しさだった。MAXXI(ローマ、2009年)、広州オペラハウス(2010年)、ロンドン・アクアティクスセンター(2012年)——これらの作品は、建築が「運動」と「流れ」を持ちうることを証明した。2016年の急逝後も、彼女のDNAを受け継いだ事務所は世界中でその思想を建ち上げ続けている。

THREE MINDS

三者の比較——建築への問いの違い

建築家 中心的な問い 素材・手法 人間への態度
安藤忠雄 自然と人間の間に何を置くべきか 打放しコンクリート、光 緊張と覚醒を促す
コルビュジエ 建築はどう人間の生を合理化できるか 鉄筋コンクリート、モデュロール 理想の生活を提案する
ザハ・ハディド 建築の形態はどこまで自由になれるか パラメトリック設計、曲面 運動と流れの中に置く

三人の思想は一見すると方向性が異なる。だが共通しているのは、「建築は現実に従うものではなく、現実を変えうるものだ」という確信だ。安藤は不便を通じて人を自然へ向かわせ、コルビュジエは合理性を通じて人の生活を再設計し、ザハは形態の解放を通じて空間概念そのものを問い直した。

建築とは石や鉄やコンクリートの集積ではない。それは一人の人間が、世界にどう向き合うかという問いの結晶である。次に街で建物を見上げるとき、その壁の奥にある「問い」に耳を傾けてみてほしい。建築はきっと、あなたに語りかけてくる。

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